episode 19 クイーンの憂鬱②

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episode 19 クイーンの憂鬱②

部屋の扉が開く音がして 猫足のソファーの上 僕は浅い眠りから目覚めた。 時計の針は午前0時をさしていた。 久しぶりに女王のお相手をさせられて、思いのほか疲れたみたいだ。 「ただいま――」 ぼんやり身体を起こしたところに、九条さんが戻ってきた。 「おかえりなさい」 「こんなところで眠っていたの?」 返事をする代わりに 「きて――」 僕は寝ぼけ眼のまま彼のネクタイを引き寄せ、頬にキスする。 「大丈夫?」 疲れた顔を間近で見て、思わず口をついて出てしまった。 多分、強がりな彼にとってはあんまり嬉しくない言葉。 「うん、今から食事。つき合う?」 九条さんは長い指で、僕の寝癖を優しく直してくれる。 「いいよ。こんな時間に食べたくはないけれど、君が食べてるところは見たい」 僕は彼の手をとって立ち上がった。 「行こう」 ルームキーをくるくると手の中で遊ばせながら、九条さんは言った。 「ルームサービスじゃないの?」 「息抜き」 九条さんの手は、当たり前のように僕をエスコートして部屋を出る。 「ところで、僕が食べるとこなんて見ていて楽しいの?」 専用エレベーターに乗り込むと、九条さんは後ろから僕を抱きしめ髪にキスした。 「楽しいさ。それに食事してる時の君って、とってもセクシーなんだよ?」 「じゃあワイルドにいかなきゃね」 エレベーターが止まって、静かに扉が開く。 僕たちは営業の終わった真夜中のレストランフロアに忍び込んだ。
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