episode 19 クイーンの憂鬱②

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「今日、中川さんに会ってきたんでしょう?」 「ああ、うん――」 愛の苦悩には2種類あると女王は言った――。 『追われる事の重圧と、失う事の恐怖よ』 九条さんが僕の手を握った。 「ねえ、もし僕の事で何か言われたのなら話して。君にはなにも背負わせたくはないんだ」 温かい手が、優しく指先まで包み込む。 「いいえ。そんな事は何も」 「それならいいけど」 九条さんは心の中まで見透かしてなお すべてを許すような目で僕を見つめる。 『あなたは今、彼に溺愛されているようだけれど、それが日に日に息苦しくなるかもしれない』 そんなわけない――。 「和樹の考えてる事が全部分かったらいいのにな。そしたら先回りして望みを叶えてあげられる」 手の甲に落とされるソフトなキス。 僕は無言でワイングラスを空にする――。 『でなきゃ――いつか愛を失う恐怖を感じるようになるでしょうね』 そんな わけ ない――。 「せっかくの料理が冷めるよ」 気づいたら、僕は九条さんの手を振りほどいていた。 追われる事の重圧――。 失う事の恐怖――。 完全な愛なんて存在しない。 まるで女王の憂鬱が乗り移ったみたいに 僕の目にもすべてが歪んで見え始める――。
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