episode 19 クイーンの憂鬱②

4/12
前へ
/316ページ
次へ
『人生って長いのよ。それこそ良い時もあれば悪い時もある』 女王の呪縛――。 『あなたが病に伏せる時、老いて醜くなっても彼は本当にあなたを愛してくれるかしら?』 僕にたたみ掛けてくる――。 「ねえ九条さん、僕なんかのどこが好き?」 「酔ってるの?少し飲みすぎだね」 九条さんは僕からワイングラスを取り上げると、代わりにソーダ水を差し出した。 「いらないよ、こんなの」 「どこが好きか答えるから飲んで」 まるで手の平の上で転がされているみたいな気分だ。 それが抜群に心地いいから――悔しくもある。 素直にソーダを受け取ると、九条さんは優しく僕の頭を撫でた。 「いくつあげたらいい?」 「なに?」 「君の好きなところ――」 僕が答える前に、九条さんは僕の手をとり跪く。 「ワガママなお姫様が満足するまでだね」 こんな彼の姿を目にしてもなお 僕は貴恵の言葉に翻弄されていた。 『特に面倒が持ち上がって来た時こそ、人間の本質が見えるのよ』 どうしたらいいのかと、僕は尋ねた。 いい方法があるわ、と姉の顔して妖婦が答えた。 『彼の愛を試してみることよ。一度、九条さんを手放してみるの』 こんなぎりぎりの条件下で――。 手放したら永遠に戻らないこともある――危惧する僕に貴恵ははっきりと言った。 『戻らないなら、今もあなたの手の中にないと同じよ』 そのとおりだと思った。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3530人が本棚に入れています
本棚に追加