episode 19 クイーンの憂鬱②

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その夜 最後のベッドを共にして――。 「貴恵お姉様?昨日の件――試してみることにしました」 翌朝 僕は彼に別れを告げた。 もちろんそう簡単に九条さんが引き下がる訳なかった。 「約束したでしょう?どうしようもなくなったら僕を行かせてくれるって――」 だけど僕は冷たく彼を切り捨てた。 「このまま一緒にいても結果は見えてる」 うなだれる彼の首筋にそっと指を這わせ、僕は吐き捨てた。 「落ちぶれていく君を、これ以上見ていたくないんだよ――」 すがるように 僕の手を掴んだ彼の指先を 愛するがゆえ 僕は無情にも振り払った――。 「さようなら。今まで楽しかったよ」 背を向ける僕に 「君は――どこに行くの?」 九条さんが虚空を見つめたまま尋ねる。 「分かってるでしょう?」 僕はハリー・ウィンストンのネックレスを後ろ手に外した。 「僕をつないでおけるのはすべて持ちうる王のような人だけ――」 そっと サイドテーブルに 光り輝く愛の証を返した。 僕の元に戻ってくる事なんて本当にあるんだろうか? 僕はもしかしたら大変な間違いを冒しているのかもしれない。 だけどもう遅かった。 「行けよ――早く!」 僕が扉を閉ざすと同時に 純潔の白薔薇を活けた花瓶が 部屋の中で派手に割れる音がした。
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