episode 19 クイーンの憂鬱②

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翌日――。 「いいこと?そこに隠れて見ていなさい。彼の本性を――」 天宮の家のはなれに秘密の応接室がある。 僕は貴恵に促されるまま、たっぷりとしたカーテンのドレープに身を隠した。 子供の頃――。 僕ら兄弟はここで密談するお父様の様子を、カーテンの裏から覗き見てはスリルを楽しんでいた。 時にそれは、見知らぬ女性との密会になることもあって刺激的だった。 「なんだか懐かしいよ」 今もカーテンの同じ場所に、僕らがあけた小さな覗き穴が残っている。 「静かに――」 貴恵が声を潜めると同時、扉をノックする音が聞こえてきた。 「どうぞ」 僕は身体を小さくして、九条さんの登場を待った。 「――失礼します」 先日まで僕の耳元に囁いていた低く甘い声音に、胸がトクンと高鳴る。 小指の先ほどの小さな覗き穴から。 僕は息を凝らして彼の端正な横顔を見つめた。 こんなところに僕がいるなんて――。 もちろん彼は露ほども疑ってはいない。 「突然お呼び立てして申し訳ありません。さあどうぞ」 「お久しぶりです、貴恵さん――」 フォーマルなスーツに身を包んだ九条さんは促されるままソファーに腰掛けた。 大人になってまで僕がこんな悪趣味な事をするには理由があった。 貴恵のことを全面的に信用してはいなかったし。 生まれてこの方、猜疑心のかたまりのような僕は――。 何より 自分の目と耳で 彼の本心を知りたかった――。
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