episode 19 クイーンの憂鬱②

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「この度はお取り計らい頂いて、心から感謝します」 九条さんが貴恵に深く頭を下げる。 「いいえ。どうやら兄弟の醜い諍いにあなたを巻き込んでしまったようです。私からお詫びを」 女優がそっと九条さんの手に触れる。 「とんでもない――」 九条さんの顔が思いのほか晴れやかなのは、ホテルが救われると知ったからだと――。 僕は疑わなかった。 「株式を譲渡する前に――ひとつ確認させていただきたいの」 「なんでしょう?」 僕は多分 これっぽちも疑っていなかった。 「先日、突然弟が戻ってきましたの。もう貴方にはお会いしないと。本当の事かしら?」 「――お騒がせして申し訳ありません」 「いえ、私はいいんです。恋愛は個人の自由と心得ていますもの。でもお互いお家の世間体も考えなければならないでしょう?」 「――はい。ごもっともです」 九条さんは僕がどんなことをしたって 許してくれるって。 僕と何かを天秤に賭けることなんてないって。 「――しかしもう終わった事です」 こんなにも信じていたんだ。 「終わった?」 「はい」 彼の口元に浮かんだ微笑みに 僕の天国は崩れ落ちた。 「ですからこの件はどうかご内密に――」 あの美しい唇は 僕への愛しか語らないって。 「商談に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」 僕は今の今まで 信じていたんだ――。
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