episode 19 クイーンの憂鬱②

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一人寝の夜は寂しい――。 僕は自分でも信じられない場所に向かって歩を進めていた。 長い廊下のつきあたり。 薄暗い角部屋。 豪奢な両開きの扉に手をかける。 「何してる――?」 ノックもなしに開く扉に――部屋の主が呆れた顔で目を見開いた。 「やっぱりだ」 帰宅して間もない征司は、プレッピールックに赤いタイを絞めたままワイングラスを手にしていた。 「やっぱり――なんだ?」 「ワインをあけるなら、僕にも下さい」 有無を言わせず扉を閉めて、僕は部屋の中へ入り込んだ。 「よくのこのこ俺の部屋へ来られたもんだな?」 征司は髪をかきあげ、迷惑そうに僕を睨みつける。 だけど――追い出しはしない。 「その図々しさは妾の母親譲りか」 憎まれ口を叩きながらもティファニーのワイングラスをもうひとつ取り出した。 「――飲んだら出て行け」 白ワインの王『モンラッシェ』をなみなみグラスに注ぐと冷たく吐き捨てる。 「いただきます――」 僕はあふれそうなワインを、グラスを傾け一気に飲み干した。 味も香りも温度さえ分からないまま。 「出て行け」 シャツの袖口で苦しげに口元を拭う僕を見下ろし、征司が言い放つ。 僕はただ無言で征司を見上げ――首を横に振った。 「――くそ!」 征司は舌打ちすると、拳で思いきり壁を殴りつけた。
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