episode 19 クイーンの憂鬱②

12/12
前へ
/316ページ
次へ
「心と身体、どちらを壊してほしいんだ?」 狙いを定めた肉食獣のような目で、征司は僕を見据えてそう言った。 「――心です」 急に大量のアルコールを摂取して、心臓がドクドクと脈打った。 生きているこの実感さえ今は憎い。 「身体も――」 征司がよろめく僕を絡めとるように抱きしめた。 「――身体も滅茶苦茶にして」 征司の耳元に唇を寄せ、甘く囁く。 退廃の限りを尽くした王の部屋に 僕は弱りきった蝶のように 舞い戻った――。 「俺の忠告も聞かずよその男と逃げた挙句に――捨てられて戻ってくるなんて」 征司が乱暴に僕の前髪を掴んで顔を上げさせる。 「おまえが純粋無垢な弟なら、恥を晒さないですむよう殺してやったのに――」 これが征司の真の愛なんだって、僕には分っている。 だから僕はいつも 自分の痛みを和らげるために それを利用する。 「だけどおまえは救いようがない恥晒しだ!」 征司は僕を床に投げ捨てた。 「この俺に――その穢れた心を壊せだと!」 人形のようにだらりとしたまんまの僕を、そのまま何度も何度も床に打ちつけた。 「いいだろう」 征司は一瞬だけ切ない顔を見せると――。 「覚悟しろ。殺された方がマシだと言わせてやる」 そのまま力ずくに 僕のシャツのボタンを引きちぎった。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3530人が本棚に入れています
本棚に追加