episode 20 偏執する愛

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拘束を解かれて、自由になると。 虚しさに耐えかねて 「抱いて下さい……お願いだから」 僕は征司に手を伸ばした。 「でなきゃ本当に殺して」 征司は鬼畜な所作を強いたことなど嘘みたいに透明な目をして、モンラッシェを口に運ぶ。 「和樹――。大人しい顔しておまえは昔から、人一倍欲張りだ」 汗だくな身体が芯から冷えて、僕は身震いした。 「九条の坊ちゃんには随分大切に扱われていたみたいだな――。身体に傷ひとつ増えてない」 征司の指先は冷たい僕の身体を這いまわり、翻弄する。 「返事は?」 「――はい」 支配される感覚は僕から思考力を奪い去り、心地よかった。 「――だけど愛は偽物だった。哀れだな、和樹?」 僕をベッドに仰向けに寝かせると、わざとらしい同情の顔を見せ征司は笑った。 「捨てられたゴミを拾うなんて俺の美学に反するが――おまえはとりわけ愛着のあるセックスドールだ」 最高級の白ワインを水のようにあおって、僕の君主がようやく赤いネクタイを解いた。 「言えよ、どうして欲しい?」 今の僕には 愛もプライドも 人格さえ――煩わしいだけだった。 「かわいそうな僕を――拾って下さい」 僕は征司の足元にすがりついた。 「僕を――王の男に戻して下さい」 抑えられない欲望――。 「俺の愛し方は覚えているな?」 ただそれだけで。 「――はい」 王は再び僕を受け入れた。
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