episode 20 偏執する愛

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坂道を転がりだした石は 途中で止まる事なんてない。 ともすれば仲間を増やして 転落のスピードは加速してゆく。 「薫お兄様、仮退院です――」 翌日。 僕は薫を連れて屋敷へ戻るために病院へ向かった。 「どうしておまえが来るんだ?」 薫は僕の顔を見るなり、面倒くさそうに吐き捨てた。 「みんな忙しいの」 訝しげな薫に見せつけるように、僕はポケットからある物を取り出した。 「ウソ。薫お兄様に話があってきました」 夕べ、征司が持っていた巻きタバコ。 「ははん、おまえまた征司兄さんのところに舞い戻ったな?恥知らず」 荷物を詰めたボストンバッグをベッドに投げつけるようにして、薫は言った。 「これが合法ドラッグ?そうは思えないけど――」 巻きタバコの匂いを嗅いで、僕は大げさに肩をすくめた。 「ねえ、薫お兄様?僕には少し、お兄様のヴィジョンが見えてきた気がします」 ライターで巻きタバコに火をつける。 鼻につく怪しい紫煙が、清潔な病室に立ち上った。 「何が言いたい?」 薫は僕からそれをひったくると、憎々しげに爪先で踏み潰す。 「お父様を殺そうとしたり、征司お兄様に怪しい薬をあげたり――薫お兄様が物騒な事ばかりするわけですよ」 顔色一つ変えず鳶色の目が僕をまっすぐに見つめる。
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