episode 20 偏執する愛

5/12
前へ
/316ページ
次へ
僕と似た境遇にあった 天宮家の養子。 硝子細工のようにナイーブな顔して こいつはとんだ食わせ者かも知れない――。 「おまえにとっても、むしろその方が好都合なんじゃないか?」 僕の見解を認めるような言い方で、薫は怪しく笑った。 「なんだか穏やかじゃないね」 元来仏頂面の薫の柔和な笑顔は、ただそれだけで人に不安を抱かせる。 「愛だの恋だのに現を抜かしてる間に、おまえは野望を失ったのか?」 楽器弾きの綺麗な指が、挑発するようにそっと僕の頬をなぞる。 「僕の野望?」 「そうだ。おまえがあの屋敷にやって来た頃から胸に抱いているもの」 「薫お兄様、それは妄想か幻覚。退院を先延ばしにした方がいいかもね?」 僕の輪郭をなぞる薫の指先を払い、僕は優しくたしなめる。 「いいさ、そういうことにしておこう」 おかしそうに笑って薫は手を引っ込めた。 「この件、僕はただ見守ります――」 今は。 今のところは――。 「さあ、帰りましょうか?――我が家へ」 僕はベッドの荷物を手に立ち上がる。 「貸せ。犯されて足元がふわふわした奴に持たせられるか」 薫はすべてを見透かしたように、涼しい顔して僕の手から荷物を取り上げた。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3530人が本棚に入れています
本棚に追加