episode 20 偏執する愛

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ある時を境に、女王の顔が急に晴れやかになった。 そればかりか、いつまでたっても荷造りをしようとしない。 挙句、リップの色まで変わった――。 それは 予想だにしない展開だった――。 僕が薔薇色の唇をした貴恵に気づいた翌日には、両手に抱えきれないほどの求愛のピンクの薔薇が届いた。 僕は偶然、その花束を貴恵の部屋へ運ぶメイドと出くわし。 見てしまったんだ。 純白のカードに書かれた 『Et je t'aime encore』 あなたをまだ愛しているというメッセージ。 違う。 それは僕に贈られた物だろう? そう思った。 だけど今回は紛らわしいイニシャルなんかじゃなく、きちんと受取人の名前が記されていた。 そして贈り主の名前も――。 それは紛れもない かつて僕が姉から奪い去り 心から愛しあったはずの男の名前だった。 「ごめんなさいね、和樹。図らずしてこうなってしまったの――」 ピンクの薔薇にうずもれながら、貴恵は勝ち誇った顔して笑った。 「やはりまだ愛してらしたんですね」 貴恵が僕に詫びる言葉など、生涯もう聞く事なんてないかもしれない。 「言ったでしょう?野暮な事聞かないでちょうだい」 女王を支配していた憂鬱は この愛の再燃をきっかけに すっかり剥がれ落ちたみたいだ。 その代わり すべてをなくした僕の身に 大いに蔓延(はびこ)った――。
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