episode 20 偏執する愛

7/12
前へ
/316ページ
次へ
知らぬ間に盛られた次男坊の毒から 天宮家の当主が復調し屋敷に戻ってきた頃――。 広い庭園も紅葉するぐらいに、秋は深まっていた。 「今夜、来るぞ」 すっかり虜になっている合法ドラッグという名の怪しい巻きタバコをくゆらせながら、征司が言った。 「何がです?」 「おまえの思い人だよ――」 心底楽しそうに僕をからかう。 「じゃあそろそろ身繕いしなくちゃ」 やたらにキスマークをつけたがるハイな征司の手を振りほどくと。 「こんな淫らな姿――見せられない」 僕はシャツを羽織ってベッドから抜け出した。 「たしかに娼婦みたいな今のおまえを見たら――さすがの王子様も幻滅するだろうな」 もうすっかり 彼の身体の感覚も忘れてしまった――。 「王子なんかじゃない。あれは裏切り者」 僕はひとりごちて、征司の部屋の窓を開け放った。 「征司お兄様もそれ、いい加減にしないと身の破滅を招きますよ――」 ほんの数週間たらずで、グランジロックの先駆者のように乱れてしまった天宮家の次期当主――。 クマのできたけだるげな目元で、眩しそうに暮れてゆく空を見つめた。 「日が暮れるの、早くなりましたね」 天宮の屋敷に 深い藍色の夜がやってくる――。 何か起こる予感がする。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3530人が本棚に入れています
本棚に追加