episode 20 偏執する愛

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薫の演奏に拍手をおくり、悪びれずに食事を続ける九条さん。 草食動物みたいに優しい目をして貴恵と見つめあう。 征司が苦しげにネクタイに手をやり、咳払いした。 「――お父上はなんと?」 重苦しい沈黙を破って、天宮家の当主が口を割った。 「九条はこれまで以上に天宮家と懇意にさせていただければと申しております」 先日 頭に血が上った次期当主が 九条のお家を揺るがすような事をしたからね――。 「よろしい。考えて良い返事をしよう」 そんなこと露ほども知らない父上の返答は、ある意味快諾ともとれた。 「ありがとうございます――」 「今日はもう遅いから泊まって行きなさい。どうだ?むこうで一杯やらないか?」 深々と頭を下げる新しい息子を誘って、父はダイニングを出て行った。 そうして 取り残された天宮家の4兄弟――。 わざとらしいほどの笑顔で2人を見送る上機嫌な双子の妹に、 「――おい、今の茶番は一体なんだ?」 敵意むき出しで征司が絡んだ。 「見てのとおりよ。変なもの吸ってるから視界が霞んでいるんじゃないの?」 デザートのコンポートを口に運びつつ貴恵は笑った。 「姉さんの神経もそうとうだけどな。自分の弟とアレした男だぞ?」 薫が皮肉たっぷりに眉を吊り上げる。 「薫お兄様――仮退院の身なのだしそろそろお休みになったら?」 険悪な僕らは 「中川、紅茶を!」 声をそろえて中川を呼んだ。
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