episode 20 偏執する愛

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真夜中――。 僕の部屋に 何者かが 侵入した――。 ベッドに横たわり浅い眠りに落ちた頃。 背中に感じるひやりとした手の感覚に、僕は思わず悲鳴を上げそうになった。 「……しっ」 後ろから口を塞がれる。 アルコールの匂いに混じって、懐かしい香水がふわりと香った。 僕の心臓は自分でも驚くほどに高鳴った。 唇を滑らせるようにして、そっと手が離される。 「九条……さん?」 月明かりに照らされ。 あたかもモノクロ映画の中から飛び出してきたような美青年が僕を見下ろしていた。 「初めて会った時、君が僕になんて言ったか覚えてる――?」 真夜中の闇をまとった声音が、静かに囁く。 「和樹――僕を許すと言ってくれ」 九条さんは膝を突き、半身起こした僕に向かってそう言った。 髪に触れようと伸びてくる手を、僕は無意識に拒絶した。 「お姉様の婚約者を――2度も誘惑させないで下さい」 ようやく僕は彼の顔を真正面から見つめた。 そうして ようやく 気づいたんだ――。 「それ……」 彼の胸元に下がる光り輝くダイヤの存在に――。 それはかつて 僕の物だった 愛しいハリー・ウィンストンのネックレス。 まぎれもない 彼の愛の証――。
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