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「どうして……」
「どうして?それはこっちのセリフだよ」
九条さんはクロスをちぎれんばかりに握って言った。
「どうして僕の愛を試したりしたの?」
僕にはまだ
彼が分かっていなかったみたいだ。
彼が一途な愛に対して
どれだけ真摯で
完璧主義かということを――。
「君に試されて、僕はすべてを手に入れなくちゃいけないと思った」
闇の中でも、こぼれそうなほどに輝く美しい瞳。
「君にふさわしいのは、すべてを持ちうる王のような男だけだと――そう言っただろう?」
シルエットになった繊細な顎のラインがかすかに震えた。
「だから……だからって……!」
こんなカタチで
僕の前に戻ってくるなんて――。
「僕が天宮の人間になれば九条の家を守る事ができる。今以上の権力も財力も手にして君の前に立てる。そして何よりも――」
九条さんの腕が強引に僕を抱いた。
「永遠に君の側にいられる――」
しょせん認められない愛ならば
どんな手をつかっても
側にいる事を選ぶと――彼は言う。
「そのためにお姉様を利用して……結婚までするの?」
「僕が天宮の人間になるにはそうするほかない。それに――」
九条さんは声のトーンをより一層落として呟いた。
「彼女は僕に利用されるほど馬鹿じゃない――」
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