episode 21 ガーデンウエディング

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虚像の結婚式は終わり。 周りの喧騒に取り残されたまんま、僕ら兄弟はげんなりと丸テーブルを囲んでいた。 「おい。またあれよこせ」 征司が薫に例のドラッグをねだる。 「落ち着けよ、こんなところで。仮にも妹の結婚式だろ?」 薫は長い足を組んで退屈そうにあくびを噛み殺す。 「だからだ。昔からあいつのままごとに付き合うとイラつく」 いいとこの御曹司の姿態を崩さないまま、征司は花嫁をねめつけた。 「まあ――花嫁を噴水に突き落としてやりたいのは俺だけじゃないだろ?和樹?」 僕は征司の言葉を無視して、僕ら兄弟に熱い視線を投げかける女の子たちに手を振ってやる。 「やめとけ――。おまえが片手を上げるだけでも花婿の気が散る」 遠くから僕の様子を窺う九条さんをさして、薫が皮肉たっぷりに笑った。 「あのう……」 僕に目配せしていた女の子たちが3人、テーブルに近づいて恥ずかしそうに声をかけてきた。 「良かったら私たちと踊って下さいますか?」 花の精みたいなドレスを着たかわいいフラワーガールたち。 「喜んで」 征司が颯爽と立ち上がり、丁重に女の子の手の甲に口づける。 「光栄だね」 興味なんかないくせに、薫は1人のフラワーガールに甘く囁く。 最後に残った清純そうなお嬢さんは 「――僕でいいの?」 僕の赤い唇に見とれ頬を赤らめたまま、何度も小さく頷いた。 「じゃあ、これあげる」 僕は花瓶の薔薇を抜いて、彼女の髪にさしてやる。 気をつけてお嬢さんたち 優雅に庭園を舞う大財閥の子息たちは みんな完璧なフェイクだよ――。
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