episode 21 ガーデンウエディング

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「ちょっと、ごめん――」 ダンス曲の変わり目と、花婿が1人になるタイミングがちょうど重なった。 「ごきげんよう、敬お兄様――」 僕が近づくと花婿姿の九条さんは、自嘲気に微笑んだ。 「そういう冗談やめて」 「冗談?違うよ。これからはそう呼ばなきゃおかしいでしょう?」 僕は頭のてっぺんから爪先まで彼をながめ、感嘆の息を吐いた。 「やっぱりその衣装にして正解」 純白の膝まであるフロックコート。 伝統的な正礼装を着こなした長身の彼は、中世の貴族そのものだった。 「なんだか恥ずかしいよ」 「――偽りの姿だから?」 「ダメ」 吐息だけで、九条さんは甘く僕をたしなめる。 「安心して。日本中探したって君以上にその衣装が似合う人なんていないから」 ウエイターから受け取ったサングリアに口をつけ、僕は笑った。 「笑えない」 九条さんの複雑な声に重ねるようにして。 「ブーケトスの時間よ!」 はしゃいだ貴恵の声が聞こえてきた。 独身女性がきゃあきゃあ言いながら、我先に女王の豪奢なブーケを狙って歩み出る。 黄色い掛け声と共に。 後ろを向いた貴恵の手からユリのブーケが放たれる。 神様の悪戯か。 それとも女王の画策か――。 「ホント、笑えないね」 純白のブーケは空を舞い。 サングリアのグラスを持つ僕の腕にすっぽりとおさまった。
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