episode 21 ガーデンウエディング

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「ごめん、また後で――」 写真撮影に呼ばれた九条さんが、僕を置いて新婦の隣に戻っていく。 「これも、あげるよ――」 僕は先刻ダンスしたお嬢さんに優美なブーケを手渡すと、足早にその場を離れた。 最近の僕らときたら――なんだか興醒めだった。 征司は幸か不幸か例の合法ドラッグにはまってから、僕の身体より巻きタバコを愛用するようになっていた。 幾分痩せて以前よりもずっとセクシーになったのに、残念ながらあっちの機能は停止したみたい。 薫は完全に復調したとみなされて、今は大人しく音大と屋敷を往復する生活を送っている。 以前にもましてお父様の前じゃイイ子ちゃんを装っているのが怖いけどね。 貴恵はさっさと憂鬱の棲家であるパリのアパルトマンを引き上げ、大量のルブタンの靴を抱えて屋敷に戻ってきた。 この偽装結婚の真相はいまだ語らずじまいだけど、まだ退屈だけはしてなさそう。 僕と九条さんは――。 人目を忍んで今日までにも何度か逢引していた。 だけど冷静さを取り戻すにつれ、僕らが義理の兄弟になる事が本当に最善の方法なのかって――。 言葉にはしないけれど、お互い心のどこかで感じたまま今日を迎えてしまった。
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