episode 21 ガーデンウエディング

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「おめでたい席でそんな顔しちゃイケナイな――」 聞き覚えのない声に、僕ははっとして顔を上げる。 「君、天宮和樹でしょう?」 僕より少し年上の 挑発的な目をしたなれなれしい彼――。 「あなた、誰?」 すぐにも爆発しそうな彼こそ 僕らの新たな起爆剤――。 「よく見て。誰かに似てない?」 ボウタイにサスペンダーの装いはうちの結婚式には些か砕けすぎて見えるけど、趣味はいい。 ライトタッチな髪色も――少しも軽薄そうに見えないのは育ちのよさがにじみ出ているからだ。 「もしかして――」 無遠慮に整った顔を見つめたまま、僕はひとつの結論に達する。 「九条さんのご兄弟でしょう?」 「ご名答」 白い歯を見せて笑う口元はとてもよく似ていた。 「九条拓海(たくみ)。花婿の弟」 僕が頭を下げるより先に、拓海は僕の手を取り自分勝手に硬い握手を交わした。 「突然、兄貴が結婚するからってアメリカから呼び戻されてね。けっこう自由にやってて幸せだったのに――」 あけすけに笑って、拓海は僕を促し庭園を歩き出した。 「拓海さん」 「拓海でいい」 「でも」 「ずっとむこうにいたから、さんづけは慣れない」 有無を言わせない強情さ。 「少し飲まない?君と話したいんだ」 子供じみた強引さ。 「いいよ」 ミスター・パーフェクトの九条さんとは似ても似つかない不躾さ。 面白い――。
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