episode 21 ガーデンウエディング

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「先に言っとくけど、俺は兄貴みたいに器用じゃないから――」 グラスを手に庭園のベンチに座ると、唐突に拓海が言った。 「なんのこと?」 「器用な両刀使いじゃないから、君を好きにはならないって事」 「ああ」 僕は気のない返事をしてシャンパンを口に運んだ。 「安心して。僕も君みたいなタイプはまったく眼中にないから」 「わぉ、大人しい顔して言うね」 肩をすくめて拓海はフランクに笑った。 「君のせいなんでしょ?兄貴が急に結婚して天宮の婿養子になるなんて言い出したの」 「どうしてそう思うの?」 「だって、どう見ても兄貴のタイプはあの気の強そう美女じゃない。ところが君は――」 拓海は僕を指さして、真顔で首を横に振る。 「まさに兄貴が昔から追い求めていたミューズそのもの」 「そう……例えばどこ?」 無邪気な目でじっとこちらを見ていた拓海は突然両手で僕の頬を包み 「君の唇――シャガールの夢想的な絵画みたい」 九条さんの口ぶりを真似て囁いた。 「とか、兄貴なら言うだろうな」 僕がきょとんとして見つめていると、拓海はほんの少し頬を赤らめ目をそらす。 「九条さんはそんなこと言わないよ。だってシャガール本人が『私の絵は夢想ではない』と言ってるのは有名だもの」 僕は――僕の頬を包んだまんまの拓海の手を優しく払うと 「君は芸術に無知。やっぱりタイプじゃない――」 冷たく笑って切り捨てた。
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