episode 21 ガーデンウエディング

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眠気を誘うほどに心地よい秋風が僕らを包んだ。 どこまでもつづく緑の芝生に、照り返す黄金の光。 たしかに――。 この庭園を手に治めただけでも、天国の住人になったのと大差ない。 「だけど忘れてない?天宮家には3人の立派な子息がいるんだよ?」 性倒錯で弟を溺愛するいまや薬物依存症の長男と。 心を病んで家に火をつけ父親に毒を盛る次男。 そして――。 魔性の妾が残していった常にトラブルの火種になる三男。 「認める。彼には大いにチャンスがある」 僕が肩をすくめると、拓海は軽快に笑った。 「でも――九条さんはきっと」 僕は首を横に振る。 「たしかに世紀のロマンチストは当主の座なんて狙ってないだろうな」 笑いをかみ殺して拓海が囁く。 「シャガールの絵みたいな君に夢中」 「夢想的な?」 「いや、ふわふわして可愛い」 「認めたね」 「でもさ――」 少し言いずらそうに頬を膨らます。 「君のお姉様はロマンチストってタイプじゃなさそうだ」 そこでようやく僕は気づいた。 「まさか――」 貴恵が九条さんと偽装結婚するに至った利害関係の一致。 そのためには、九条さんはどうしても婿養子でなければならなかった。 「前言撤回。君ってやっぱり賢いね」 ルブタンの靴を持って誰かに嫁ぐよりも ルブタン専用の靴部屋がある 天宮家の当主の妻に納まる方が 断然いいに決まってるものね――。
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