episode 22 惑わし

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ドアを閉めるとほぼ同時に、九条さんは僕の唇を奪った。 壁に押し付けられ そのまま窒息しそうになるほど 彼は激しく僕を求める――。 「ダメ……朝の8時だよ」 ようやく唇を離すと、僕は可愛い獣を両手で押しとどめた。 「それに君は――新婚初夜があけたばかりの花婿。分かるね?」 僕の髪を優しく撫でつけながら、九条さんは駄々っ子みたいに首を横に振った。 「嫉妬したんだ――」 甘い声は掠れて。 指先からじりじりと 僕に邪な感情を流し込む。 「どうして君が?それ僕の台詞じゃない?」 使われていない客間は夏を引きずって、きなくさい臭いがした。 締め切られたカーテン。 しなやかなベルベッドのカバーがかかったダブルベッド。 やたら大きな音で時を刻むアンティークの置時計。 すべてが淫靡で――。 「君の隣に立ってたってだけで――実の弟にまで嫉妬した」 その上 薄暗い部屋で嫉妬に悶える九条さんは それこそ芸術品のように美しい。 「そんなこと言うなら僕だっていっぱい嫉妬したよ?」 僕は両腕を彼の首に回して、真正面から視線を絡めとった。 「弟の事――あんな可愛げに拓ちゃんなんて呼ぶんだもの」 僕が笑うと――。 「からかうなよ」 一瞬本気で不機嫌な顔した九条さんも――。 「やっぱり君にはかなわない。小悪魔」 僕と額を合わせるようにして、唇を綻ばせた。
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