episode 22 惑わし

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「おはようございます、和樹坊ちゃま」 ダイニングの扉をくぐると、何か言いたげな中川が駆け寄って来て、僕を席まで案内した。 隣の席では、すでに家族の一員みたいな顔して拓海がデニッシュを頬張っていた。 「ごきげんよう、お兄様方。おや?貴恵お姉様、本日は一段とお美しい」 僕は嫌味な愛人よろしく美貌の本妻に向き直った。 「ウエディングナイトの翌朝だもの。そりゃ肌の色艶だって良くなる」 拓海の不躾な物言いに、征司と薫がこぞって眉をしかめる。 「変な詮索しないで下さる?」 貴恵に至っては、目も合わせないまま枝つきライチの皮を剥いていた。 「和樹、今後客人を泊める時は前もって相談しろ」 征司が冷たく言い放つ。 「場違いな相手の場合は特にだ」 「失礼。貴恵さんの素顔があまりにも美しいと言いたかったんです」 悪びれもせず白い歯を見せ、人懐っこい顔で拓海が笑った。 「あなたに言われなくても、分かっていてよ」 やっぱり女王の相手は まだ拓海には荷が重いかもしれない。 「ところで和樹、新しいお義兄様はどこだ?」 薫が意味ありげに、僕に向かって問いかける。 「ここです。遅くなってすみません」 どんな状況か把握しないまま、王子様――もとい天宮家の婿養子は颯爽と姿を現した。 「ちょうどいいわ。兄弟全員そろったところだし、私からみなさんに話があるの」 貴恵がうやうやしく口を開いた。 さあて いよいよ女王のご宣託が下るよ――。
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