episode 22 惑わし

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「和樹――あなたには反対する理由はなさそうね?」 テーブルの下で足先を触れ合う僕と九条さんに気づいてか、貴恵は鋭い目で僕に言った。 「お姉様、今日のピアスもお似合いですよ」 人の意見を聞かない耳に敬意を表して僕は頭を下げた。 その時――。 「俺は断固反対だ」 そっくりな目をした双子の片割れが、低くうなった。 「まあ、征司。あなたとは今までケンカもせずうまくやってきたのにどうして?」 感情のない硝子のような瞳で貴恵は微笑む。 「教えてやる。それは俺とおまえの興味の矛先が、いつも違う方向を向いていたからだ」 酒も薬も抜けている時の征司は、まさにすべてを司る王のように――何もかもを把握している。 勘付いているんだ。 貴恵がこの屋敷を――ひいて次期当主の座まで欲しがり始めている事。 「そうね。あなたは弟を恥ずかしいぐらいに溺愛。私はいつも敵対していたし。欲しい物が重なったことなんてなかった」 僕らの顔色を窺うようにしながら、貴恵は愛らしい笑い声を上げた。 「――冗談じゃないぞ?」 真顔のまま、征司は貴恵だけを見据えて言った。 「ギャラリー・ラファイエットで買い物でもしてりゃあいいものを。俺の領域に足を踏み入れるなら覚悟しろよ。容赦はしない――」 大変だ。 獅子の兜に真鍮の楯でもって 王も完全に武装したよ。 「わお。これが天宮家の朝食の席か!クールだね」 無言で睨み合う2人を見ながら、拓海がのんきに感嘆の声をもらした。 「拓ちゃん」 場違いな呼び名で、九条さんが弟をたしなめる。 「いつもこんな感じだよ。ねえ中川?」 額に汗する執事に僕は意地悪く笑いかけた。
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