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「和樹――あなたには反対する理由はなさそうね?」
テーブルの下で足先を触れ合う僕と九条さんに気づいてか、貴恵は鋭い目で僕に言った。
「お姉様、今日のピアスもお似合いですよ」
人の意見を聞かない耳に敬意を表して僕は頭を下げた。
その時――。
「俺は断固反対だ」
そっくりな目をした双子の片割れが、低くうなった。
「まあ、征司。あなたとは今までケンカもせずうまくやってきたのにどうして?」
感情のない硝子のような瞳で貴恵は微笑む。
「教えてやる。それは俺とおまえの興味の矛先が、いつも違う方向を向いていたからだ」
酒も薬も抜けている時の征司は、まさにすべてを司る王のように――何もかもを把握している。
勘付いているんだ。
貴恵がこの屋敷を――ひいて次期当主の座まで欲しがり始めている事。
「そうね。あなたは弟を恥ずかしいぐらいに溺愛。私はいつも敵対していたし。欲しい物が重なったことなんてなかった」
僕らの顔色を窺うようにしながら、貴恵は愛らしい笑い声を上げた。
「――冗談じゃないぞ?」
真顔のまま、征司は貴恵だけを見据えて言った。
「ギャラリー・ラファイエットで買い物でもしてりゃあいいものを。俺の領域に足を踏み入れるなら覚悟しろよ。容赦はしない――」
大変だ。
獅子の兜に真鍮の楯でもって
王も完全に武装したよ。
「わお。これが天宮家の朝食の席か!クールだね」
無言で睨み合う2人を見ながら、拓海がのんきに感嘆の声をもらした。
「拓ちゃん」
場違いな呼び名で、九条さんが弟をたしなめる。
「いつもこんな感じだよ。ねえ中川?」
額に汗する執事に僕は意地悪く笑いかけた。
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