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当主の許可という絶大な決定権の元。
新婚夫婦との複雑な同居生活が始まった。
もっとも夫の方は、足繁く新妻の弟の部屋へ通ってきているけどね。
大財閥の当主の座も、愛に夢中な人間にとってはたいした価値なんてないみたい。
反対に。
生まれた時からこの家の帝王だった征司の危機感たるやすさまじく、ますます酒とあやしい薬に溺れていった――。
「いい加減まずいと思わない?」
夕食後テラスでバイオリンを弾く薫に、僕はそっと近づいた。
「一体何の話だ?」
ドビュッシーのやや不明快ともとれる旋律が秋の夜には良く似合う。
常に実態のつかめない演奏者本人にも――。
「征司お兄様、変な筋から薬を買ってる」
「俺には関係ない」
冷酷な表情そのままに、薫は冷たく言い放つ。
「よく言うよ。でも足のつかないところで手を引くあたり――薫お兄様さすがだと思うよ」
「おまえに褒められるとはね」
演奏の手を止め、薫は煙草に火をつけた。
「知ってる?お父様も最近周りにもらしてるんだって。一番の孝行息子は次男の薫かもしれないって」
薫の目が紫煙の向こうに光った。
「殺されかけたのも知らないでさ。気の毒な話だよね」
僕は嘘つきの手に、すっと灰皿を差し出してやる。
「ここまで計画通りだったのにね、薫お兄様――」
想定外のライバルは今頃お部屋で
ネイリストに爪を研いでもらってるらしいよ。
もちろん、僕らの寝首をかくために――。
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