episode 22 惑わし

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「なんの騒ぎ?」 自室から顔をのぞかせ、迷惑そうに薫が声を荒げる。 「征司お兄様が30個もあるショコラの詰め合わせの中から、たまたま貴恵お姉様にヘーゼルナッツのを食べさせたの」 僕が説明すると、呆れ顔で勢いよくドアを閉ざした。 可哀想なネイリストを下がらせると、中川が貴恵の肩に手を添えた。 「貴恵お嬢様、念のため病院へ――」 気のたった女王は執事の手を払いのけ 「必要ない。下がりなさい!」 苦しげにベッドに顔を伏せる。 「しかしですね」 辟易する執事の横から――。 「こんな時まで強がらないで」 長身の拓海が、すっと貴恵の側に歩み出た。 「……ちょっと!何をするの?」 有無を言わさず身をかがめ 「僕が病院までお連れします」 貴恵を横抱きにして抱き上げてしまった。 「放しなさい!」 両手で発疹の残る顔を覆ったまま、貴恵が叫んだ。 「恥ずかしがる事なんかありません。人間いい時もあれば悪い時もある。どんな顔をしていてもあなたは変わらず美しいですよ」 ここにきてようやく。 プレイボーイが本領を発揮したみたい。 「あなたの美しさは、何があっても僕が守って差し上げます――」 部屋を出る道すがら、拓海は貴恵のストールを手にとり優しく顔に被せてやった。 それにしても ジーンズ姿の男に抱かれて あの女王が大人しく連れ去られるなんてね――。 「中川、僕もジーンズ履いてみようかな?」 中川は答えず 「濃い紅茶を淹れてまいります――」 10も老けた顔して立ち去った。
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