episode 23 オペレッタの夜 ①

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薫が合流し、僕ら兄弟は連れ立って開演時刻の迫る劇場内へ足を踏み入れた。 豪華絢爛な劇場内の、一際優雅なバルコニー席。 最前列に父と九条のご両親の姿が見えた。 「敬が遅れているようね」 九条家の奥様が優しく微笑んだ。 僕らはうやうやしく頭を下げ、挨拶を交わす。 「お兄様の代わりに僕がエスコートを」 そっと貴恵の腰に手を添えたまま、拓海は得意げに笑った。 「お父様、拓海さんて本当に愉快な方なの」 いい娘、ひいてはいい嫁を演じる女狐。 「僕の方こそこんな美女を連れて歩けて鼻が高いです」 下心なんてまるでないって顔した九条家の弟。 「結婚したんだから早く新居をお持ちなさいと敬には言ってるのよ。ご兄弟もいらっしゃるのにご迷惑じゃなくて?」 奥様はきっと――長男を婿養子に取られたのが本意ではないんだ。 「いいえ、奥様――いえお義母様。敬さんは優しいので、すべて妹の希望を叶えてくださっているだけです」 どこまでもソフトな姿勢のまま、征司が遠巻きに貴恵をけなす。 「何もご心配なさいませんよう。弟も喜んでいますから」 事をややこしくして楽しむ薫を一睨みしてから、僕は九条のご両親にとっておきの笑顔を向ける。 「敬お義兄様には良くしていただいています――いろいろと」 それこそ――本当にいろんな意味で。
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