episode 23 オペレッタの夜 ①

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オペラグラスからのぞく19世紀の舞踏会。 ワルツの軽快なリズムとは裏腹に、今僕が置かれている状況は針のむしろだった。 友人に裏切られ『こうもり伯爵』とあだ名された登場人物ファルケの復讐さながら――。 赤いビロードの幕が開くと同時、征司は九条さんの前を横切り、断りもなく僕の左隣に座った。 まるで飛行機のエコノミー席みたいに、窮屈に3人並んだ不自然な僕らと――恋人同士のように耳元で囁きあう偽装結婚の新妻とその義弟。 広い座席に1人身を投げた薫は、呆れ顔で肩をすくめた。 「いつまでオペラグラスをのぞいてるつもり?」 ため息交じりの九条さんの声で、僕ははっと我に返る。 いつの間にか舞台の幕は下り、幕間の休憩時間となっていた。 「食事はするな。終わってから寿司に行こう――」 立ち上がりざま僕の肩に手を置き、征司は聞こえよがしに囁いた。 「どういうこと?」 九条さんの顔に不安の色がよぎる。 「誘われてる」 うつむいたまま僕はこめかみを押さえた。 「食事だけ――ってわけじゃないよね?」 九条さんがおもむろに僕の腕を掴んだ。 「――行かせない」 九条家の両親と天宮の当主、そして熱い視線で僕をとらえる彼の――妻と弟が歓談しながら立ち上がる。 「九条さん――」 僕は力ずくで腕をとらえる九条さんに抗えず、ただ首を横に振った。 こんな場所で理性を失ったりしたら――。
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