episode 23 オペレッタの夜 ①

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「ねえあなた、ロビーでマティーニでも飲まない?」 貴恵の声に九条さんが気をとられた瞬間、僕は腕を引いた。 「行って。大丈夫だから――」 そっとハリー・ウィンストンの十字に口づける。 「信じて――なんとかする」 不安げな視線を残したまま、『今行く』答えて――九条さんは席を立った。 「なんとかって、どうするつもりだ?」 事情を察した前列の薫が、椅子の背もたれ越しに僕に問いかける。 「難しい話じゃないだろ。征司兄さんを拒絶すればいい」 そんなことは 他人に指摘されなくたって 僕が一番良くわかってるさ――。 「なぜできない?情か?」 情なんてあったら むしろとっくの昔にこんな関係 断ち切っていたはずだ。 「でなきゃ、拒絶できない理由はひとつだろ?」 結局は僕が 心のどこかで征司に依存しているから。 完全に拒絶する事で 失いたくないと思うズルイ心があるから。 うっすらと笑みを浮かべたまま立ち上がり、薫は僕を追い越していく。 「どこ行くの?」 「喫煙所だ。昨今喫煙者は風当たりが強くてね。一度劇場の外まで出なきゃ灰皿も用意されてない」 「――薫お兄様」 出口の扉に手をかける薫を僕は呼び止めた。 「――今、あの薬持ってる?」
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