episode 23 オペレッタの夜 ①

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少し遅れてロビーに出た。 「僕にも少し――ちょうだい」 賑わうゲストの傍らに、浮かない顔した拓海の姿を見つけた。 「俺の飲みかけだよ?」 「いいの。さすがに未成年には甘いジュースしか出してくれない」 僕はマティーニグラスに口をつけると一気に飲み干した。 「貴恵お姉様、持っていかれたの?」 「いいや」 自嘲気に笑って拓海は呟く。 「もともと俺の物だったことなんてない」 切ないため息。 出会った頃よりぐっと憂いをおびた目元。 「君、本気になったね?」 誘惑してみせると豪語していた色男はすっかり影を潜めた。 「笑うといいよ。ミイラ取りがミイラになったって」 拓海の視線の先、彼を虜にした女神が優雅にグラスを傾ける。 真珠のように輝く白い肌に魅惑的な赤いルージュ。 黒く艶めくアイラインと長い睫毛。 「一番諦め切れないのはさ、俺が彼女を誘惑したところで、兄貴が傷つかないって事さ」 そう、普通ならそこで抑え込まれるはずの禁断の感情。 「なら諦める必要はないよ――お姉様だってきっとそう望んでる」 「勝手なこと言うなよ」 「いいや、僕には分かるよ。君がお姉様を病院へ運んだあの夜から――2人の間には変に色っぽい空気が漂ってる」 「まさか」 「実際、嬉しかったんだと思うよ。征司お兄様から守ってもらえたのがさ――」 僕はポケットの中で 例の巻きタバコを弄んでいた。
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