episode 23 オペレッタの夜 ①

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スタンディング・オベーション。 盛大な拍手と歓声。 黄金の花吹雪が舞う中 赤いビロードの幕が下りた。 すべてはシャンパンの泡のせい。 舞台の上では何が起こっても、誰も咎めやしない。 だけど現実の世界に引き戻された僕らの場合は――。 小さなトラブルでさえ命取りになりかねない。 ましてやこんな公の場でスキャンダルなんて起こそうものなら――。 九条さんは打ち合わせどおり、仕事に戻るという名目で真っ先に会場を後にした。 天宮家の当主と九条御夫妻。 そのあとから僕ら兄弟が連れ立ってロビーに向かう。 「和樹……」 動揺を隠せない拓海が僕の腕をそっと引いた。 「――計画通り?」 「ああ。でもいくらなんでもこんなところで……」 カラカラに乾いた声が、拓海の尋常ではない緊張を物語る。 「問題ないなら落ち着いて。それにさ――」 僕は前を歩く征司の大きな背中を見つめたまま目を細めた。 「これは、何より彼の為でもあるんだから――」 その時。 どう見ても場違いないかつい男たちが、次々と入り口の回転扉をくぐり――。 まだまだドレスアップしたゲストで溢れるロビーに向かって、突進してくるのが見えた。
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