episode 24 オペレッタの夜②

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「私、気分が――」 今すぐ祝杯をあげたい気分であろう貴恵が――笑いをこらえきれなくなったのか――上手に気を失い拓海の腕にしなだれかかった。 「貴恵さん!」 拓海が僕に視線を残したまま、貴恵を支えロビーの片隅へ消えてゆく。 まるでこれ以上、付き合いきれないとでも言うかのように――。 「さあ、参りましょうか」 刑事の鋭い一声に。 「お兄様っ……!」 僕は取り乱したフリして征司にしがみついた。 「お兄様……ごめんなさい。僕なの」 天宮家の末っ子の突然の告白に、捜査員たちも目を見張った。 「許して、心配だったんだ」 首根っこに抱きつくようにして、僕は征司の耳元に囁いてやる。 「九条さんを裏切れません。でも――」 僕は あなたを 拒絶できない――。 「お兄様の為なんです――だから許して」 これは本当に征司の為でもあった。 僕の本心を知るや――征司は両脇に立つ若い刑事の腕をこれ見よがしに振り払った。 「触るな。おまえらの年収ほどするスーツだ」 王の威厳を取り戻し、背筋をまっすぐに正して――。 僕の拒絶が 精神的にもたらす打撃を思えば 一度の過ちで収監されるぐらい なんて事ないだろう――お兄様?
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