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「おまえってやつは――本当に疫病神だな」
薫が苦虫噛み潰したみたいな顔して歩き出す。
「すべてはシャンパンの泡のせいだ。忘れてやる――」
含み笑いで頭をふり、征司が優雅に踵を返した。
「ちんたらするな――さっさと案内しろ」
王のお付きになりさがった刑事たちを一蹴し、まるでレッドカーペットを歩むみたいな足取りで2人は劇場を後にした。
「旦那様!和樹坊ちゃま!」
謎の大名行列と入れ違いに、血相変えた中川がロビーに飛び込んできた。
「おまえが青い顔してる理由はもうみんな知ってるよ」
僕はため息をついた。
「ありえん――まったくありえん!」
「お父様っ!」
貴恵の演技とは異なり、血圧が上がりすぎた天宮家の当主は文字通り足をとられてよろめいた。
「触るな――!薫の言うとおり、お前は天宮家の疫病神だ!」
支える僕の手を冷たく振り払い、父は言い放った。
「中川、お父様と九条御夫妻を先にお車へ――」
僕を忌み嫌う父親の視線にさらされながら、僕は無表情に場を収める。
「しっかりね、和樹さん」
去り際。
愛しい人に良く似た目をして、九条家の奥様は僕の手をとった。
「本当に申し訳ございません」
僕は深々と頭を下げた。
育ちが良過ぎるせいか、彼女には何一つ分かっちゃいない。
僕が天宮家の疫病神と呼ばれる由縁も。
僕という人間が、九条家にどれほどの損害を与える存在かも。
はたまた可愛いあなたの息子たちに与えた多大なる悪影響さえ――。
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