episode 24 オペレッタの夜②

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ロビーに僕1人取り残されると、野次馬の興味も失せたのか人垣は散り散りになった。 すでに――貴恵と拓海の姿もなかった。 僕は狼狽する劇場の受付係に丁重に一礼すると、そのまま外に出た。 茶番は終わりだ――。 肌寒い秋の夜道。 銀杏並木の歩道を黄色い落ち葉を踏みながら、劇場の裏手まで回った。 人気のない裏通り。 温かい色した外灯の下に、ぽつんと白いポルシェが止まっている。 「お待たせ」 助手席に身を滑り込ませると、僕は九条さんの頬に挨拶程度のキスを落とした。 「なんだか外が騒がしいけど、何かあった?」 九条さんは僕の身体を乗り越えるようにして、助手席のシートベルトを締めてくれた。 慣れ親しんだ香水が鼻先を掠めて、僕は柔らかい彼の髪に顔を埋めたい衝動にかられる。 まだそんなに遠くないところで、パトカーのサイレンが聞こえた。 「征司お兄様と薫お兄様が大麻の不法所持で逮捕されたの」 一瞬、自分の耳を疑うように九条さんはポカンとした。 「――なんだって?」 「今聞こえたとおりで間違いないよ」 僕は彼の尖った唇にそっと指先を押し当て弄ぶ。 「和樹」 僕の指先をつかむと、子供の悪戯を咎める父親みたいな顔して 「君、また何かしたね――?」 九条さんが言った。 「行こう。僕お腹すいたよ」 僕は何も答えず、シートに身を投げたまま、上目遣いに年上の恋人を見つめた。 「これからもその目に何度騙されるか――」 心地よいエンジン音に九条さんのため息が重なる。 耽美な指先がゆっくりとハンドルを切ると、ポルシェはライトアップされた美しい夜道を走り出した。
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