episode 24 オペレッタの夜②

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「本当にこんなところでいいの?」 場末のバールのような安い多国籍料理店。 「来てみたかったの、こういうところ」 カンパリを舐めながら、僕は天下のブラックカードが使えるか心配する九条さんを笑った。 肩を寄せ合うようにして食事する狭いテーブル。 陽気な音楽と、堅苦しいフォーマルから解放され軽装で食事を楽しむ人々。 僕はタイをとり、胸元があらわになるほどシャツのボタンを緩めた。 「和樹、はしたないよ」 「あなたも取ったら?ここで場違いなのは僕らの方だよ」 九条さんのピンク色のネクタイに手をかけると、僕は唇すれすれまで彼を引き寄せた。 「構わない。僕は僕だから」 「つまらないの」 カクテルに刺さった小さな傘のオブジェを弄ぶ僕の手を――。 「一体どうしたのさ?」 唐突に九条さんが握った。 「どうしたって何が――?」 僕の手の中で陽気に回転してた傘の柄が折れ、紙細工が虚しくテーブルを転がる。 「君なんでしょう?征司くんを通報したの」 九条さんの声音がいつもより冷たく響いて、僕はほんの少し傷ついた。 「まあね――」 正確には君の弟だけど――もちろん元凶は僕だ。 「やっぱり」 九条さんは腑に落ちない顔して、僕からそっと目をそらす。 「九条さんこそ――なあにその顔?」 「いいや、忘れて」 衝突を避けるための大人の対応。 「いやだ、言ってよ!」 これ以上踏み込んだら どちらも傷つくと分かっているのに。 僕はまだ大人じゃない――。
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