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「本当のことを言うとね」
言葉を選ぶ事もせず、彼を傷つけるのも覚悟で。
「僕の人生にあなたはそぐわない」
僕は泥水を差し出した。
「僕が君のパートナーでは不満てこと?」
九条さんは少し戸惑いながらも、率直に僕の言葉を意味を探る。
「僕が満足しない相手と付き合うと思う?」
「じゃあなぜ?」
「僕が言いたいのは――」
言いかけて僕は、そっと自分の手を握り合わせた。
「さっきね、君のお母様が僕の手を取って励まして下さったの。その時分かったんだ。今の君が僕にくれる溢れんばかりの愛――枯れない泉みたいな愛はさ、こうして育まれてきたんだって」
僕は愛の泉を持たない。
だから九条さんは、僕の人生にはそぐわない――。
「征司お兄様との関係は――それこそ僕の人生に見合った特別な物だったんだ」
いくらそれが卑猥な倒錯で
常識から逸脱し歪曲されているにせよ――。
愛を知らない僕の――いや僕らの人生には、これ以上ないほどぴったり適合していたんだ。
「純粋な愛とはまったく違うけど」
僕が自嘲気に笑って顔を上げると――。
「九条さん……?」
人目もはばからず、彼は僕をすっぽりと抱きしめてしまった。
「いいんだよ。君の中にどんな感情があったって――」
優しく僕の頭を撫でる手は少しだけ震えていた。
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