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静かに僕から身体を離すと。
分かってほしいんだ――と九条さんは言った。
「征司くんに嫉妬しないと言えば嘘になるけど、君の気持ちまで支配できるなんて――僕ははなから思ってない」
それから
この期に及んで彼は
愛の概念を切々と説いてゆく――。
「僕が君を好きなのはさ、なにもその愛らしい外見のせいばかりじゃないよ」
目を輝かせてどうしようもない僕を見つめたまま
「中でも君の気質は――磁石みたいに僕を惹きつける」
打ち震える感情を吐露する。
「無鉄砲なように見えて、その実君は常に考え答えを求めて行動する。冷めた顔してクールに構えているのは見せかけだけで、本当の君は――僕の知る誰よりも情熱的な人間だ」
九条さんは手折れた紙細工の傘を拾い上げ、僕のグラスの淵に優しく飾った。
「それに24時間フル稼働で働き続ける君の小さな頭」
「いつも悪巧みしてるせいだ」
「いいや、純粋な追求心のせい――愛してるよ」
本当は空っぽの僕の頭にそっとキスして――愛の伝道師は
「僕はね、和樹」
今ある愛の形を一段上の高みにまで持ってゆく。
「君を君として形成しているすべての要素を愛してるんだ」
「嘘」
「これが嘘ならまだ僕は正気。でもね――」
人間なら誰しも倒錯した部分はある。
天使の羽のような指先で、儚げに顔を隠したミスター・パーフェクトの彼にだってきっと――。
「征司くんの愛から逃れられず苦悩するその姿――正直それも僕が愛してやまない君の要素のひとつだ」
いや必ず、そういう部分はあるんだ。
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