episode 24 オペレッタの夜②

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「いや忘れて。疲れてるんだ――今夜はどうかしてる」 自分に言い聞かせるように、九条さんは歯切れ悪く呟いて頭を振った。 「そろそろ行こうか」 空のグラスを上げたり下げたり辟易した様子で、彼は取り繕う。 「平気だよ」 僕は含み笑いでそっと彼の手を握った。 「君が3人で仲良くする淫らな夢を見た事なんて――すぐ忘れる」 僕の言葉に耳たぶまで真っ赤にして九条さんは席を立った。 「ごめん、冗談――」 背を向けたまま僕を振り返りもせず、狭い店の通路を進んでゆく。 「待ってってば――」 やがて人気のないレストルームの手前で立ち止まると――。 「タチが悪すぎる」 九条さんは僕を壁に押し付け捕らえた。 「ごめんなさい……」 手首を掴まれ至近距離で見下されると甘い快感が背中を走り、僕は自然に唇を開いた。 「お詫びするよ。だから許して――」 視線を交えるとそのままお互い身動きがとれなくなる。 視線だけで僕の氷の心臓が脈打つほど――いまだ僕はこの人に惹かれていた。 「許して」 「たまにおまえが悪魔に見えるよ――」 息が詰まるくらい乱暴に九条さんが僕の唇を奪う。 「僕のすべてを許して――」 繋がったままの唇で僕は囁く。 「――そしてすべてを愛してよ」 僕らは もっと もっと 愛と言う名の 深みに嵌まる――。
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