episode 24 オペレッタの夜②

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「ふうん、キスしてもらえたんだ。女王様に」 冗談めかして笑っても、拓海は女王の部屋を見上げたまま微動だにしなかった。 真っ直ぐすぎてこちらが恥ずかしくなるぐらいのまなざしで、見えるはずのない貴恵の姿を追い求める。 「ロミオとジュリエットみたい――多少一方通行だけど」 ようやく 「何か言った?」 僕が側にいた事を思い出したように、拓海ははっと我に返った。 「いいや。それより君、大丈夫?」 僕は焦りにも似た不安に駆られて、思わず尋ねた。 出会ってからいくらも経っていないのに。 すっかり失われてしまった拓海の快活さ。 それにとって代わるように彼を支配したアンニュイな倦怠感。 「大丈夫だよ、もちろん。たださ」 「ただ?」 拓海は夢見心地な表情のまま、再び貴恵の部屋を見上げた。 「自分でも怖いぐらい彼女に夢中なんだ」 僕はため息をついた。 「見ているだけで分かる。だけど気をつけて――。表向きその彼女は君のお兄様の妻だ」 そんな事さえ分からなくなってしまったみたいに、拓海はきょとんとして首を傾げる。 障害のある恋がもたらす盲目という罠。 「ねえ和樹――俺決めたんだ」 それは危険な決心だった。 「彼女の望む事ならなんだってする。彼女が喜ぶならなんだって」 冷たい風が吹き抜けた。 「おやすみ、拓海――気をつけて帰ってね」 「ああ。おやすみ――」 拓海は名残惜しそうにいまだ貴恵の部屋を見上げていた。
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