episode 25 戯れの末路

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episode 25 戯れの末路

静寂に包まれた穏やかな朝がやってきた。 誰もいない秋晴れのテラス席。 ブランケットに包まれ、無作法に身体を投げ出したまま、モーニングティーを楽しむ。 「――それはたしかなの?」 紅茶ポットを手にした中川がひそかに僕に耳打ちする。 「はい。夕べのうちに済まされたそうです」 昨日。 オペラ鑑賞の夜に、天宮家のバカな兄弟が違法薬物の不法所持で逮捕された角で――。 「遺言状の書き換えね――」 天宮家の当主はひそかに遺言状の書き換えを行ったという。 「征司お兄様の次期当主の座もこれで怪しくなったね」 僕はひとりごちる。 「騒ぎを起こすだけ起こしておいて、自分だけいいご身分ね?」 「ごきげんよう、貴恵お姉様」 長いローブを翻し、高貴なユリのような出で立ちで貴恵が朝食の席に現れた。 「ディカフェのモカをお願い」 僕の挨拶を無視して、貴恵はテーブルに並べられた新聞に目を通す。 「2人分の莫大な保釈金に警察やマスコミへの手回し――お父様はずいぶんご立腹よ」 高く結い上げた髪に手をやりながら、呆れ顔で細いシガーに火をつける。 「僕のせいですか?もしかしたら――」 フレンチトーストにナイフを入れながら、僕は鼻で笑った。 「お怒りの原因は結婚間もない娘の不品行のせいかも」 ふわふわの甘いフレンチトースト。 背徳の情事の翌朝には お互いぴったりのメニューだよね、お姉様?
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