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「なんですって?」
綺麗な猫目が僕をひと睨みする。
「お姉様、僕からひとつ忠告しておきますね――」
僕は肩からすっぽり被ったブランケットをたぐりよせると柔らかな起毛に頬ずりした。
「拓海みたいなタイプの男が本気になると後々やっかいです」
「あの子が?」
完全に見下した口調で、女王は傲慢に笑った。
「私のキスとマシュマロの感触を間違えるようなうぶな子よ」
「キス、してないんだ」
「あたりまえでしょう?みんながあなたみたいに淫乱だと思わないで」
「だけどこの場合、からかう方が罪です」
拓海は貴恵が思っているほど、何にも知らないピュアな男じゃない。
キスが偽物だって事ぐらい気づいてるだろう。
「どうしてよ?ただの戯れじゃない」
気づいててなお、あの顔か――。
「とにかく彼は、からかっちゃダメです」
僕は無心で貴恵の部屋を見上げていた拓海の横顔を思い出し、薄ら寒いものを感じた。
「それはそうと和樹」
中川が運んできたディカフェのコーヒーに口をつけ、貴恵がさらりと話題を変える。
「どうして薫まで売ったの?」
心地よい風が、朝日に照らされた貴恵の後れ毛を優美に揺らした。
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