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見計らったように――。
「いいとこなのに」
九条さんの携帯電話が鳴った。
「おあずけ」
ベッドの上のローブを羽織ると、意地悪く笑って携帯電話を手にとる。
「貴恵だ――」
着信を見て自嘲気に呟く。
「もしもし」
さすがに僕の目の前で喋るのははばかられるのか、彼は電話を片手にバスルームへ向かう。
開いたままの扉の向こう、無駄にうろうろと歩き回る九条さんの姿が見えた。
平然とした声音で妻と電話しながらも、時々僕の顔色をうかがう。
僕はベッドに寝転んで頬杖をついたまま、狼狽する彼を見てどこか楽しんでいた。
「――なんだったの?」
げんなりした様子で戻ってくると、九条さんは携帯電話をソファーに放り投げた。
「君を探してた」
「お姉様、僕を探して九条さんのところに電話してくるんだ」
「笑い事じゃないよ」
「それで憎き弟になんの用だって?」
九条さんは真顔で僕に向き直った。
「お父様のお見舞いへ行くようにって。お父様の入院の引き金になったあの騒動も、結局は君のせいだから謝ってこいってさ」
「いやんなるよ。悪い事が起こるとなんだって僕のせいなんだから」
僕はあきらめ半分、ベッドから立ち上がった。
「まあ、あながち間違ってもいないけど」
原因はすべて僕にある。
そう、これから起こる事も
きっとすべて
僕の天性の悪運に起因するのだ――。
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