episode 25 戯れの末路

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父とこうして2人で向かい合うのなんていつ以来だろうか――。 ガウンを着てベッドに半身起こした父に僕は一礼する。 「貴恵お姉様に言われて、お見舞い――いえ、この間の夜のお詫びに来ました」 父は厳しい目をして、溜息混じりに僕を一睨みする。 しかしその瞳はもう、以前のような迫力を宿してはいない。 「おまえは兄弟の中では一番正直で、一番馬鹿だ」 少し掠れた声が、僕を憐れむ口調でそう言った。 「征司なら形ばかり立派な見舞いの品でも持ってくるだろうし、薫なら自分の意思で来たと嘘でも強調するだろう」 愛のない父が、愛のない息子たちを嘲笑する。 「仕方ないですよ、お父様。ご存知でしょう?僕にはあなた方の言うところの、野卑た庶民の血が半分入ってるんです」 僕は皮肉に歪む父の口元を真っ直ぐ見据えたまま呟いた。 「それも忌み嫌われる妾という魔性の血です――」 父の目が、僕を通して母を見ていた。 この闇より黒い目と髪と、熟れた石榴を髣髴とさせる赤い唇――。 「バカをしたついでにひとつ聞かせてください」 僕は母から受け継いだ魔性の色香を纏って、父の前に立ちはだかる。 「お父様、遺言を書き換えられたと聞きました」 喉を鳴らして、父は僕を見上げた。 「もちろん、天宮家の次期当主は僕ですよね?」 それは僕の宿命。 生まれた時から約束された 受け取るべきギフト――。
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