episode 25 戯れの末路

8/14
前へ
/316ページ
次へ
「どうして……おまえを……?」 あんなに自信家だった父が 日本の経済界を牛耳る化け物が 僕みたいにちっぽけな妾の子から どうしてかな、目をそらしたよ――。 「ごまかさないで下さい。僕、ある念書を持っています」 母は僕に言った。 『和樹、あの家に戻りなさい。 あなたにはあの家でやるべきことがあるのよ――』と。 そう僕は、天宮の屋敷へそれを携えてやって来た。 「あなたが母と結んだ愛人契約は実に詳細に文書にされていた。そこまでして母が欲しかったんですか?」 だから何があっても――僕は大人になるまでこの屋敷に居座らなければならなかった。 「その中でも、僕を最も驚かせたのがあの念書です」 父の顔色はますます悪くなる一方だった。 「母との間に男子が生まれた場合、その子を無条件で天宮家の跡継ぎにすると――あなたは約束なさった」 つまり兄弟一バカな僕でも、だ。 「冗談……冗談に決まっているだろう!そもそもそんな非公式な念書に今さら効力なぞないわ」 僕はベッドサイドの椅子に腰を下ろすと、小首を傾げて見せた。 「おかしいですね?僕じゃあるまいし――あなたがそんな馬鹿な遊び方するとは思えません」 正妻との間に息子も娘もあって。 死んだ弟の息子を養子にまで迎えた。 それなのに――。 「わざわざ妾の子を跡継ぎにしなければならないなんて――一体どうしたんですか?お父様」
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3535人が本棚に入れています
本棚に追加