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病人にはだいぶ刺激的な見舞いを終えた後――。
「おかえりなさいませ、和樹坊ちゃま」
僕はいったん屋敷に戻った。
「ただいま、中川。お父様、だいぶお疲れのようだった」
僕の部屋に封書を持ってきた中川は、複雑な表情で頷いた。
「これ、頼んでおいた例の?」
「はい。貴恵お嬢様と征司坊ちゃまのDNA鑑定書です」
「嘘でしょう――」
僕は中を見て思わず声を上げた。
中川は何かに勘づいている様子で、僕からさりげなく目をそらす。
「やっぱりこの家は魔の巣窟だったんだね――」
僕は封書をデスクの鍵のついた引き出しに奥深くしまいこんだ。
「中川、身支度を手伝って」
「はい。坊ちゃま」
僕は着ていた衣類を脱いで中川に投げ渡すと、鼻歌混じりにシャワールームへ向かった。
「これからは僕も――王様みたいな身なりをしようと思うんだ。どう思う?」
中川は答えなかった。
答えない代わりに、僕に向かって平伏すように深々と頭を下げた。
熱いシャワーを浴びる。
僕は今夜九条さんに、僕の素性を、貴族然としてこの家にのさばる兄と姉の正体を――すべて明かそうと思っていた。
その上で今後の僕たちのあり方を、考えていかなくちゃいけないって。
胸元でハリー・ウィンストンのダイヤがまぶしいほどに輝く。
だけど今、僕が感じているのは――。
今朝別れたばかりの恋人に
また一秒でも早く抱きしめられたいという
甘く浅はかな欲望だけだった。
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