episode 25 戯れの末路

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身体にぴったりと沿うシャルベのシャツに、タイを巻いてゆく。 「白薔薇のようです」 シャツと同系色のジャケットを僕に羽織らせると、初老の執事は感嘆の息をもらした。 「ちょっと寒々しい?赤いポケットチーフでも飾ろうか?」 「いいえ、必要ございません。ご覧下さい」 中川が姿見を引いてきて、僕の全身を映し出した。 「なるほどね」 シャツと肌の白さが相成って、唇が朱を差したようにより一層赤々と見える。 「こんなことを申し上げるのは失礼かと存じますが――今宵のあなた様は絵に描いたようにお美しい」 僕は首を横にふった。 「いいの――。それだけが取柄だもの」 僕は美しさだけでのし上がった妾の母の子だからね。 「そろそろ行くよ」 「お車はいかが致しましょう?」 「いらない。歩ける距離だから」 「行ってらっしゃいませ」 「帰りは――未定」 玄関先で頭を下げる中川に、僕は後ろ手に手を振って答えた。 アーチを下り、足早に屋敷の門を出る。 今夜はやたら冷え込む上、いつも灯っている外灯まで消えていて、不気味なほど闇が色濃く感じられる。 屋敷の外周に沿ってしばらく歩くと――。 「こんな時間にお出かけ?」 突如、大きな人影にぶつかって僕は声を上げた。 「おっと……俺だよ俺」 「びっくりした。拓海なの?」 驚いて立ちくらむ僕を支えるようにして、逞しい騎士のように拓海が笑っていた。
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