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拓海を振り返る時
僕にはこの後起こる事の
だいたいの予想はついていた――のかもしれない。
目前の灯りで、さっきよりも拓海の顔がよく見えた。
白く虚ろで、寂しげに見えるほど心もとない表情をしていた。
「俺さ、嘘をつくのがヘタなんだ」
震える声の危うさ。
「それ以上にさ、人を憎んだり本気で嫌いになったりする事が苦手みたいだ」
迷子の子供みたいな顔して、拓海は俯いたまま唇を噛んだ。
「全部、美点じゃない」
僕はにっこりと笑って見せる。
「君が持ちうる美点。僕がもっとも苦手とするタイプの――」
一瞬だけ、拓海の白い歯が見えた。
「出会った時もそんな事言ってたな」
泣き出す前のように肩を震わせ、大きく深呼吸する。
「だけどさ――」
拓海は両手を祈るような形に組み合わせた。
祈る時
人はさ
必ずそれ相応の見返りを求めているんだよね。
僕は目を細めた。
細い銀色の光にも似たきらめきを拓海の手の中に見た。
次の瞬間
拓海は僕の身体を強く抱きしめていた。
「ごめんね和樹――君が嫌いなわけじゃないんだ」
耳元で囁く声はとっても優しくて――。
僕は殺される痛みなんて
これっぽっちも感じていなかった。
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