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僕はそっと俯いた。
白いジャケットを――シャルベのオーダーシャツを貫通して、細いナイフが神の放った矢みたいに僕のハートに突き刺さっていた。
僕の左胸から、ちょうどポケットチーフのような形に赤い血痕が広がってゆく。
「ポケットチーフは……いらないって言ったのに」
ひとり皮肉な冗談に笑った。
だけど――あんなに血色のよかった僕の唇、きっと今は真っ青だろう。
地面に崩れ落ちながら
すべては神の計画どおりなのかもしれないと――僕は思った。
「君がいなくなればいいって、そしたらすべてが思い通りに行くって――何度も、何度も、彼女が言うんだよ」
喘ぎ声にも似た拓海の泣き声が、頭の中にこだまする。
「そしたら俺が――叶えてやるしかないじゃないか!」
バカだな、君も。
君たちは兄弟そろって
すべてを捧げる
そんな神聖な愛し方しかできないのか?
それもタチの悪い悪魔の使いのような
僕たち姉弟なんかのために。
僕の言葉はもう声にはならなかった。
最後の力を振り絞って、胸元のハリー・ウィンストンのクロスを掴む。
冷たい地面に横たわったまま――。
僕は愛しい人が僕を待っているであろう明るい方を見ていた。
やがて静かに闇が訪れる。
シャットダウン。
こんなところで死ぬもんか――。
※【おまえの首に口づけしたよ1】 終
2へつづきます
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