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「なんてことをしてくれた!」
父親という――名ばかりの得体の知れないもの。
僕の目の前で猛り狂う、憎しみの目をした初老の権力者。
「客人の前で恥をかかせおって!」
怒りに任せて投げつけられたスワロフスキーの置物が――。
粉々に砕けて僕の足元に散った。
「引き取ったのは間違いだった……。おまえは一体いつになったらこの家にも兄弟たちにも馴染むんだ!」
自分のあやまちに苦しんでいるのか、頭を抱えて。
「その目――香乃子にそっくりだ。おまえも私を恨んでいるのか?」
苦々しげにその名を口にする。
「母親と同じように――」
激しく肩を揺すられ、僕はされるがまま壁に打ちつけられ倒れた。
母の名を口にする時。
この男はもっとも弱者の顔になる。
「――っ!」
倒れた拍子に、割れたガラスの破片が僕の指先を切りつけた。
「ごめんなさい……お父様」
「出て行け!」
響く怒声――。
「もっとこの家に馴染めるように努力します……」
「顔も見たくない!」
指先に赤い血がにじむ。
それでも。
僕はここにいなくちゃいけないんだよ――。
僕はいそいそと立ち上がり、重厚な両開きの扉の前で父に一礼すると部屋を出た。
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